新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版

6月16日、日本政府は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」を発表した。筆者が知る限り、我が国のマスコミはこのことをさほど取り上げていない。しかし、子細に読むと戦後長らく続いてきた日本的雇用システムと閉鎖的な労働市場から決別し、日本経済の再生と(労働者の発展)を実現しようとする決意が感じられる。以下、同計画本文の一部を引用する。

 

「(1)三位一体の労働市場改革の指針の基本的考え方

働き方は大きく変化している。「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代となってきた。職務ごとに要求されるスキルを明らかにすることで、労働者が自分の意思でリ・スキリングを行え、職務を選択できる制度に移行していくことが重要である。そうすることにより、内部労働市場と外部労働市場をシームレスにつなげ、社外からの経験者採用にも門戸を開き、労働者が自らの選択によって、社内・社外共に労働移動できるようにしていくことが、日本企業と日本経済の更なる成長のためにも急務である。

これまでの我が国の賃金水準は、長期にわたり低迷してきた(先進国の1人当たり実質賃金の推移を見ると、1991年から2021年にかけて、米国は1.52倍、英国は1.51倍、フランスとドイツは1.34倍に上昇しているのに対して、日本は1.05倍)。この間、企業は人に十分な投資を行わず、個人は十分な自己啓発を行わない状況が継続してきた。

 

GXやDX等の新たな潮流は、必要とされるスキルや労働需要を大きく変化させる。人生100年時代に入り就労期間が長期化する一方で、様々な産業の勃興・衰退のサイクルが短期間で進む中、誰しもが生涯を通じて新たなスキルの獲得に努める必要がある。他方で、現実には、働く個人の多くが受け身の姿勢で現在の状況に安住しがちであるとの指摘もある。

 

この問題の背景には、年功賃金制等の戦後に形成された雇用システムがある。職務(ジョブ)やこれに要求されるスキルの基準も不明瞭なため、評価・賃金の客観性と透明性が十分確保されておらず、個人がどう頑張ったら報われるかが分かりにくいため、エンゲージメントが低いことに加え、転職しにくく、転職したとしても給料アップにつながりにくかった。また、やる気があっても、スキルアップや学ぶ機会へのアクセスの公平性が十分確保されていない。」

 

マスコミがさほどこの発表に注目しない理由はなんとなく想像できる。

テレビ、大手新聞などの社員の多くは日本的雇用システムの下で手厚く保護されているので実感がわかないのではないか。実行計画策定にかかわった学者や役人の世界も基本的には年功序列の内部労働市場であり、どこまで自らの体験を元に現実感を持って立案できただろうか、という気もする。

他方、計画を承認した首相を始めとする国会議員は、日本的雇用システムとは無縁の厳しい選定システムの世界で生きている。その点では、計画の真の重要性を理解しているのは、関わった政治家ではないかと密かに期待をしている。

 

結果が分かる10年後の日本が楽しみである。

 

#新しい資本主義のグランドデザイン #日本的雇用システム #ジョブ型雇用 #労働移動

 

イラスト作成:(c)葉ヶ竹霧