3月19日の読売新聞の「ジョブ型雇用 広がる」という記事では、日立製作所、三菱ケミカル、JR東日本ほかの日本を代表する企業の具体例が紹介されているが、現時点では、「日本型ジョブ風制度」とも言うべき流行現象の域を出ないように感じる。
「だが、ジョブ型を全面的に採用すると、年功序列型の賃金制度や終身雇用制度などの大転換につながる可能性がある・・・高度な技能を持つ一部の人材や、専門的な職種の賃金を上積みする仕組みにとどまっているケースも多い」
⇒ジョブに値札をつけるのが「ジョブ型雇用」だとすれば、年功賃金制度などの大転換をせずに移行できるとは考えにくい。自社に不足する高度専門人材を採用するために、年功賃金・職務給併存による一国二制度的な賃金体系にする手もあるが、中途半端な取り組みでは制度的な矛盾が露呈し、企業や人材の競争力強化につながるかどうかも疑問である。
「三菱ケミカルは20年からジョブ型を導入し、部長などのポストを社内公募に切り替えたが、昨年末に募集した2700件への応募は約半分にとどまるという」
⇒一般論として、新卒同期入社の中の競争という「内部労働市場」しか知らない人間が公募に応じるには心理的ハードルが高いのではないだろうか。外を知らない者が、年齢や入社年次の呪縛に縛られたマインドセットから抜け切るのは容易ではない。
「労働政策研究・研修機構の浜口桂一郎所長は「ジョブ型を定着させるには個社の取り組みだけでは難しい。新卒一括採用を前提とする大学教育から変えることが必要になる」と指摘する」
⇒指摘はもっともである。日本の大学教育は、一定の職務スキルを持った人材を養成することに重きを置いていないから、「ジョブ型」とは相容れない。かといって、(工学系を除く大学教育にほとんど期待せず)入社してから白いキャンバスを会社の色に染め上げていく「新卒一括採用・育成方式」をやめて、専門スキルのある者を採用する「ジョブ型」に完全に移行するメリットがあると考えている企業経営者がどれほどいるかも疑問である。
経団連もジョブ型雇用の活用を呼びかけている。
「日経HRの調査によると・・・ジョブ型雇用を希望する理由としては、「仕事の範囲が明確だから」(78.5%)や「専門性が身につくから」(49.3%)が多い」(2023年版春季労使協議の手引き 経団連事務局編、p57「自社型雇用システムの検討」より)
しかし、専門スキルのある人材を採用するのがジョブ型雇用であり、ジョブ型雇用になるから専門性が身につくのではない。専門スキルのない新卒が採用されることは本来ない仕組みであり、認識のずれと甘さが気になるところである。
いろいろコメントしたが、雇用制度を大転換したとしても、労働者の意識が変わり、社会が変わるには10年はかかるのではないかと筆者は思っている。
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