日本型「ジョブ型雇用」の意味するもの?

政府は、日本型のジョブ型雇用などを進めることで賃金が持続的に上がる社会に向けた仕組みづくりをしようとしている。

 

日本を代表する企業が「ジョブ型雇用」制度を導入との発表をしているが、中身を見ると、①従業員一人ひとりの職務内容について、期待する貢献や責任範囲を記載した「Job Description(職務記述書)」を作成、②年功型賃金から職責・役割レベルに基づく報酬システムへの転換等が主なもので、欧米多国籍企業やそれらの日本法人では昔からやっていることである。

 

筆者にとって不思議なのは、「社員の9割にジョブ型雇用を導入」といった記事がこれからの日本を切り開く先進事例のように紹介されていることである。「ジョブ型の賃金制度は職務に基づく賃金制度です。ジョブに値札がついています」(「ジョブ型雇用社会とは何か」濱口桂一郎 岩波新書)とあるように、職務給に代表されるジョブ型賃金制度は、企業横断でジョブの値決めをするものであり、転職が当たり前の社会を前提としたものである。HRに携わる身からすると、社員の9割がどんどん転職するような仕組みを日本の経営者が不用意に導入するとは思えず、ブランドイメージ向上による社外優秀人材の呼び込みと社内優秀人材のリテンションを同時にはかろうとしているものと推測する。

 

ジョブ型賃金は、左官工なら1日あたり●●円、とび職なら1日あたり●●円といったような職人社会の賃金との類似性がある。「人」ではなく「職務」に値札がつくから、年齢、勤続年数、性別等の要素が反映されない点ではフェアな賃金とも言える。他方、シングルレートの職務給制度なら、職務が変わらない限り昇給もないから、従業員にとって必ずしも福音になる制度とは言い切れないのではないか。

 

ところで、ジョブ型雇用などを通じて「賃金が持続的に上がる社会」になるためには、優秀人材がよりよい条件を求めて当たり前のように転職する労働市場が前提となる。こうなるとリテンションの為に市場相場より優位な賃金水準への引上げを図らずを得ず、賃上げと業績向上の好循環のサイクルが生まれる可能性がある。しかし、転職の活性化には、変化を嫌う「定着指向」や「安定指向」といった日本人ビジネスパーソンのマインドセットも大いに影響する。

 

いずれにせよ、「日本型」のジョブ型雇用が何を意味するのかは、まだ筆者には謎である。

 

 

 職務給 日本型ジョブ雇用 #職務記述書