「令和4年版 労働経済の分析 -労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進に向けた課題」という動画が公開された。
https://lnkd.in/gCT_sbFe
日本政府(厚労省)の労働政策を25分で視聴できるので一聴の価値ありとは思うが、「労働者の主体的なキャリア形成への支援を通じた労働移動の促進」というタイトルに若干の引っかかりを感じるのは、筆者だけだろうか?
転職をせずに1社に留まることは「主体的なキャリア形成」にはならないとの挑発的なタイトルのようにも見えるが、1社に留まりながら主体的なキャリア形成をすることも環境によっては可能と思われる。以下の労働経済白書(概要)スライドの説明にあるとおり、日本の労働市場の現状は、転職がトレンドになっているわけでもなく、旺盛な需要があるITや医療・福祉分野への労働移動も高まってはいない。一社にとどまる勤続年数も欧米諸国と比べ長い傾向にある(ただし、イタリアやフランスと同程度ではある)。
最初の会社を3ヵ月で辞め、若干の転職を経て人事コンサル(自営業者)になった身からすれば、政府が「新しい資本主義実行計画」で転職などの労働移転を進める方針を出したことには隔世の感がある。かつての日本型雇用システム全盛期においては、早く辞めると人生の落伍者のレッテルを貼られる雰囲気があった。
白書では転職の理由に関する分析もしているが、一般に、転職する場合、人員整理などの会社都合や、パワハラ・セクハラや劣悪な労働条件等の環境から脱出する場合を除けば、ある程度合理的な判断で決めているのではないかと思われる。それは、とどまった方が得か、移った方が得か、の比較による判断である。転職した場合に得られる利益はあくまで期待値にすぎないからリスクを避けたい人間にとって転職のハードルは高い。欧米諸国とくらべて勤続年数が長い理由は、エンゲージメントが高いからではなく、リスクを冒して転職するより、多少の不満を抱えながらも現状維持(=安定)を選ぶ傾向が依然として日本人サラリーマンに強いのではないか・・・というのが筆者の経験に基づく見解である。
日本の未来をになう若い世代の人たちが、これらの傾向から脱して、自らの成長のために「主体的」に変化を求めるようになれば良いと思うと同時に、中高齢者にも、学び直して成長する意欲があれば「主体的に」キャリアを形成するチャンスが残されていることを実感できる環境になることを願う。
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