30数年におよぶ会社勤めを辞め、フリーランスとして人事労務コンサルティング業に転じて丸2年が経過した。顧客のみなさまのお蔭で仕事に恵まれ、日用の糧も得ることができたが、サラリーマン時代の生活パターンやマインドセットからの切替えに思いのほか時間がかかったというのが率直な感想である。以下、思いつくままに変化したこと触れてみたい。
1.100%の自己責任:
仕事の受注、サービスの提供(コンサルティングや社労士手続き業務等)、アフターケアに至るまで、すべては自己の責任において行うのがフリーランス(個人事業者)である。PLやBSも自分で作成し確定申告をする(得意な仕事ではないが・・・)。工夫し頑張った成果は100%自分に返ってくるのは嬉しいが、成果が上がらなくても補填してくれる人はいない。 会社に行ってさえいれば決まった給与をもらえた時代が懐かしくもある。
2.仕事と生活の切り分けの難しさ:
職住同一の個人事務所を運営しているため、仕事時間と生活時間の切り分けが曖昧になり、スイッチの切替えが難しい(コロナ禍で在宅勤務を続けたサラリーマンも同じかもしれないが・・・)。仕事をしている最中でも物理的にはそこにいる以上、洗濯物の取り込み、家族当番制の掃除や宅配便の受け取りなど、思考中断を余儀なくされる生活活動に時間を取られる。もっともサラリーマンだって、自分のやりたい仕事だけに一日中没頭できるような恵まれた人は少なく、会議や雑用に振り回されているケースが多いだろうから、似たようなものかもしれない。
他方、いつも近くにいることで家族に何かあればすぐに対応できる点は、安心感を含め大きなメリットと言えよう。
3.仕事の効率:
仕事の効率は、サラリーマン時代より上がっていると思う。自分の費やしている時間や労力が、①「仕事」そのものなのか、②「仕事」の準備なのか、③私生活に属するものなのかを明確に分けて記録し、管理するようになった。コンサル業は時間単価を決めてサービスを提供するのが基本のビジネスなので、自分が提供している内容が単価に見合うものかどうかを厳しく評価しなければならない。顧客からコストに見合わないと判断されれば契約打ち切りという結果になる。
サラリーマン時代に手を抜いていたとは思わないが、9時から5時まで会社にいれば、アウトプットにかかわらず給与をもらえる権利が発生していたこととの違いは大きい。
4.インプットとアウトプット:
今までの経験や知見をもとに顧客にサービスを提供するアウトプット中心の活動を続けていると、徐々にストックが減っていき、また、最新の情報から取り残されるというリスクにさらされる。組織で働くサラリーマンは、希望しなくても様々な教育研修の機会を与えられ、周囲の人間から様々な情報をもらっている恩恵に気付かないことが多いかもしれないが、フリーランスは意図的にインプットの機会を確保しないと人材レベルが劣化する。筆者の属している社労士会など、士業団体は内部でいろいろな研修機会を設けているが、これは有益なインプットのための欠かせない手段となる。
以上、思いつくままにフリーランスとサラリーマンの違いのほんの一部について記してみたが、その他にも社会保険や労働者保護に関する法制など違いは大きく、経産省や厚労省が共同で出した「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が参考になる。https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210326005/20210326005-1.pdf
実を言うと、個人的な一番の違いは、「精神的な拘束感」ではないかと思っている。
毎朝7時になれば家を出て駅に向かい通勤電車に乗るという条件反射的な行動を取らずに家にいることで感じるもやもやとした罪悪感から解放されたのは、つい最近のことである。「拘束される」ことで給与をもらっているという潜在意識が精神的呪縛になっていたようである。