経団連タイムズ寄稿:日本型雇用システムの将来展望<8>

一般社団法人日本経済団体連合会の機関紙、「週間経団連タイムズ」に8回シリーズで連載をしています。今回は第8回目(最終)の原稿を紹介させていただきます。
                         
                                特定社会保険労務士 鈴木孝嗣

第八回 おわりに-年齢が関係ない職場環境に向けて

       (2020625日号)

 

 

外資系企業に勤めてから日本企業での勤務を振り返ると、「年齢(正確には入社年次)」に呪縛されていたことに気づかされる。筆者は、子会社の課長から親会社の人事部門の担当部長として逆出向したことがある。出向先では、筆者の入社年次が把握されており、自分の年次が1年でも遅いと「先輩」扱いで接してくる。彼らの間でも入社年次による序列が厳然と生きていることに、当時は違和感を覚えなかったが、今から思うとグローバルでは理解不能の内部秩序だったと思う。

 日本の伝統的企業では、入社後10年から20年くらいは、同期入社同士の競争を通じて社内序列と処遇が定まる。社員同士も、互いの入社年次を気にしながら先輩・後輩の序列を崩さない接し方をする(学校時代の体育会系クラブに似ている)。人事屋としては、社員の名前を聞いただけで入社年次が言えるようになって一人前とされ、入社年次毎の給与水準と個人ごとのばらつきも頭に入ってくる。社内の年次管理に集中するシステムに長くいると、外部労働市場が気にならなくなり、市場価値は高いが給与の低い若手社員が転職するに及んで慌てることになる。 

年長者に敬意を表することは、日本あるいは東洋の美徳である。組織の秩序が安定するよさがあることを否定するものではない。だが、年齢や勤続年数にこだわりすぎる日本企業の人事制度・運用は、グローバルの人材獲得競争の常識からは外れたものであり、修正が必要である。外資系企業にいると相手が10歳、20歳年下だろうが上だろうが関係がない。「仕事ができる人か?」、「信頼できる人か?」が判断基準の全てとなり、個人として接していく。社員の大半が転職組だから入社年次の概念もない。外資系企業の世界は、年齢、性別など、能力に関係ない属性を気にせず仕事に集中できる点で働きやすい世界である。

 

 これからは、日本企業においても、年齢(勤続)基準の処遇制度を一つずつ見直し、能力・成果基準に変えていくことが必要である。勤続10年または30代半ば以降は、年齢や勤続に関係なく「報酬」と「貢献」を一致させる管理・運用を続けることは一つの方法である。技術的には、等級やグレード毎のレンジ給を設けることで対応できる。すなわち、レンジの上限に達したら昇格しない限り昇給を停止する。能力・成果が頭打ちになった30代以降の社員の賃金を横ばいにすることができれば、その原資を使って、60歳定年後の報酬を50%以下に引き下げるような労働意欲をそぐ「雇用延長」「再雇用」制度を改め、定年時の報酬を保証して、本人の希望に応じ65歳や70歳まで働いてもらうことが可能となる。

 少子高齢化社会を迎えたいま、成長意欲と能力のある従業員が年齢にかかわりなく妥当な報酬を受けて仕事を続けられる仕組みへと日本型雇用システムを修正していくことが、企業と従業員双方にとって最良の道であることを信じている。