経団連タイムズ寄稿:日本型雇用システムの将来展望<7>

一般社団法人日本経済団体連合会の機関紙、「週間経団連タイムズ」に8回シリーズで連載をしています。今回は第7回目の原稿を紹介させていただきます。
                         
                                         特定社会保険労務士 鈴木孝嗣

第七回 キャリア形成は社内ローテーションだけでは不十分

2020618日号)

 日本企業の人材育成の強みの一つに、ローテーション制度がある。企業グルー プのなかで定期的な人事異動や

在籍出向を行うことで様々な経験を積ませて成長させる仕組みであり、このなかから将来の経営者も生まれてくる。専門家育成 を阻害するジェネラリスト偏重のシステムだとの海外からの批判もあるが、必ずしもそうではない。強制的に命令するのではなく、本人のキャリア志向と意志と家庭事情等に配慮しつつ、きめ細かい運用を行えば、会社と従業員双方が成長できるシステムであり続けると思われる。もっとも、色々な経験と言っても一企業グループ内の同質的な文化の中でのそれであり、厳しいグローバルビジネス競争のなかでタフに闘える人材を育成できるかと言われると、即座にはイエスと言えない面もある。

 

 そこで、このローテーション制度のなかに、資本関係の全くない外資系企業での経験を含むことにすれば、日本

伝統的大企業が真のグローバル企業になるために必要な経営人材や専門職人材の育成に有効だと思われる。もち

ん、これは正式なローテーション制度ではなく、年功序列の日本企業に嫌気がさし、退職して外資系企業で活躍

る優秀な人材を呼び戻そうとする経営と人事の意志と度量が問われる(他流試合から帰還したと考えるのであ

る)。欧米や中国等のグローバル企業との競争が激しさを増すなかで、自分の会社のことしか知らない内部エリー

トだけで会社を引っ張っていける時代は終わったと思われる。

 

本人からすれば、社内ローテーションでは十分にキャリア形成ができないと思うときに、「転職」カードを加えれば実力向上の可能性が広がる。多くの日本企業にとって、グローバル規模で国籍・人種・性別・年齢等に関係ない効果的なタレントマネジメントは課題であるが、多国籍企業の日本法人に転じれば日々の経験からこれを学ぶこともできる。伝統的日本企業と外資系企業のハイブリッド・キャリアは、真にグローバルで闘える人材へ成長するステップとなり、市場価値の高い職務経歴書の作成にもつながる。

 

現実には、日本企業を辞め外資系に転じた人材が再び日本企業に戻る例は(経営幹部を別として)多くない。これは、一般に日本の大企業は転職した者に不寛容であることや、外資系企業で経験した価値の大きさを理解できないためと考えられる。しかし、企業からすれば、再び日本企業のグローバル化に貢献したいという志を持つ有為の人材を放っておくのは損である。優秀な人材であれば、どんな理由でどこに行ったとしても、成長した後に呼び戻すための労力を惜しまない会社こそが、これからのグローバル競争のなかで生き残る会社である。欧米多国籍企業では普通に行われていることを指摘しておきたい。