一般社団法人日本経済団体連合会の機関紙、「週間経団連タイムズ」に8回シリーズで連載をしています。今回は第4回目の原稿を紹介させていただきます。
第四回 新卒一括採用と中途採用 (2020年5月21日号)
日本型雇用システムの入り口は、「新卒一括採用」である。世界的には、日本のように「新卒市場」と「転職(中途採用)市場」が明確に分かれているのは珍しい。職業経験ゼロの新卒者を大量採用し、社会人の基本やビジネススキルをイチから仕込んでいく。「同期入社」毎に内部競争をさせるプロセスを通じて長期的に会社に合った人材を育て、役員や社長にする。競合他社に対し従業員一丸となって力を結集する局面では、均一で質の高い人材を育成することに加えて、若年層の失業率を低くしている点でも社会的なメリットがある。従業員の立場からみると、集合研修で同じ釜の飯を食った仲間と、社内横断的な部門の情報や、仕事の悩みを共有することで明日への活力が生まれ、会社に定着(リテンション)させる効果も出る。
専門性を身につけたプロフェッショナル人材を転職市場に供給している点でも社会的な意義がある。
中小の外資系企業は、職業経験ゼロの者をイチから教育する余裕がないから人員補充の基本は「中途採用」である。そもそも大多数が転職経験者のため、「中途採用」という感覚もない。日本企業で10年以上の勤務経験をしてから外資系に転じた者は、ビジネスパーソンのマナーと専門性を備えた即戦力であり、外資系でも重宝されることが多い。手塩にかけて育てた人材を取られると考えれば一企業にとってはマイナスにもみえるが、ビジネス社会全体に質の高い人材を供給すると考えれば社会への貢献度は高い。
新卒一括採用の負の側面は、内部競争に意識を向け過ぎるあまり、社外に通用する専門能力を磨く活動をおろそかにしてしまうことである。出世競争の帰趨が判明する40代半ばになってから慌てても後の祭りであり、報酬に比べてパフォーマンスの低い人材に堕してしまうリスクがある。本人のマインドセットの問題ではあるが、システムと運用に原因の一端があることは否めない。人事としては、社内研修等により、何歳になっても自己研鑽と社外に通ずる専門能力を身につける意識を持ち続けるよう啓蒙していくことが必要であろう。
日本企業では、専門職人材の補充や新規事業分野の人材獲得等のために中途採用を行うところが増えている。そこで、留意すべきは、新卒一括採用が王道で、中途採用は空席ポジションを埋める急場しのぎや、均一な会社のカルチャーを変えるカンフル剤にしかとらえない考え方に陥らないことである。
ビジネスパーソンである以上は、自分の市場価値を常に意識すべきであり、新卒で入った自分達が主流派で、中途採用者は傍流などと考えてはいけない。お互いに切磋琢磨し、協力し合い、学び合うところから、職場は活性化し、会社も成長する。その意味では、経験者(中途)採用と新卒採用の人員比率は(数値目標ありきではないが)50対50程度で拮抗していた方がよいようにも思われる。