経団連タイムズ寄稿:日本型雇用システムの将来展望<3>

一般社団法人日本経済団体連合会の機関紙、「週間経団連タイムズ」に8回シリーズで連載を始めました。今回は第3回目の原稿を紹介させていただきます。

第三回 日本型雇用システムのPros & Cons(制度・運用)

2020423日号)

 

日本型雇用システムの制度・運用面の特徴の多くは、パフォーマンスと報酬(Pay)の関係を長期間で決済しようとするところから来ている。新規学卒社員を、OJTOff-JTを通じて10年程度をかけて育成し、その間の賃金をある程度年功的に上げていく。大手企業で「○○歳で課長(部長・役員)に異例の若さで昇進!」といった話題がニュースになること自体が、長期勤続を前提とする年次管理を続けていることの傍証になる。

内部登用が基本で、外部からの採用は手薄なポジションの補充の位置づけに過ぎないことが多様性(Diversity)の阻害要因になり、若いうちから高いパフォーマンスを発揮して低い処遇に不満を持つ社員を引き留めることを難しくもしている。

しかしながら、長期間でパフォーマンスと報酬のバランスを取るシステムは、自らの育成をじっくり考える社員にとっては悪いことではなく、安定した処遇のゆえに達成の難しそうな課題にも果敢にチャレンジングする気になれる。

 

ジョブ型が基本の外資系企業の場合、中途入社が当たり前で、評価に年齢や勤続年数は関係がない。入社して成果を挙げればすぐに昇進や昇給が行われる。一方で、半年経っても一人前にならなかったら、退出勧告プロセスに移行し、外部市場から採用した後任者に入替えられる(Replace)。会社が育成するより、「自分のスキルは(他社だろうが、どこだろうが)自分で磨いて入って来い!」という非情な世界であり、日本型雇用システムの世界から移ったばかりの人はカルチャーショックを受けるかもしれない。社員は目先の業績達成に汲汲としがちになり、チームワークより自分の業績達成に集中することになる。会社に対する忠誠心より、「仕事や職種」が重要であり、それらにこだわって転職を繰り返すことになる。

報酬については、慢性的な人材不足からタレント獲得競争を続ける外資系の相場は高値圏になるが、日本の伝統的な大企業の福利厚生制度には報酬に換算すればそれなりになるものが多いので給与だけの単純比較には意味がない。企業グループで加入する格安の団体生命保険・傷害保険は、民間保険との差額を隠れた報酬と考えてもよいし、3千万円を超える死亡の際の労働災害付加補償や、最長で3年程度になる休職期間の存在は、長期にわたり安定的に企業に勤めるためのインセンティブになる。

 

自分のスキルや経験をすぐに報酬等で評価してもらいたい人には外資系のジョブ型システムは魅力的に映るであろうが、長期的かつ安定的に報酬や自己の成長を考えようとする人にとって、日本企業の長所には捨てがたいものがある。