経団連タイムズ寄稿:日本型雇用システムの将来展望<1>

一般社団法人日本経済団体連合会の機関紙、「週間経団連タイムズ」に8回シリーズで寄稿を始めましたので原稿を紹介させていただきます。

第一回 はじめに~日本の労働市場の特殊性(202042日号)

 

グローバル競争の激化や少子・高齢化の進行などの環境の変化に伴い、①新卒一括採用、②長期・終身雇用、③年功型賃金などを特徴とする日本型雇用システムの限界が叫ばれて久しい。筆者は日本企業の人事を経て外資系企業の人事総務法務部門の責任者を務めたが、欧米企業の「ジョブ型」システムを体現する外資系のカルチャーに接して感じたのは、どのシステムにもPros & Cons(長短)があるということである。日本的雇用システムにも強みと課題があり、適切に軌道修正を図れば、これからも日本経済の成長を支え、従業員が望むキャリアをつくることができる装置であり続けると思われ、その展望につき素描してみたい。

 

 

さて、通年採用が主体の外資系は人材紹介会社をよく利用する。ある人材紹介会社の調査によれば、日本は世界で最も競争の激しい人材マーケットとされる。低い失業率(20201月で2.4%)、高い有効求人倍率(20201月で1.49%)などのデータはそれを裏付けるが、より大きな理由は、実質的に転職マーケットに参加しているタレント(優秀人材)の絶対数が少ないことである。転職市場の有力プレーヤーたる外資系(雇用者全体の1.5%と推計)が限られた優秀人材の奪い合いをしているが、ビジネス英語の国際比較ランキングで下位の日本人サラリーマンで、外資系の求人条件にマッチする数は少ない。積極的に転職市場に参加しようとする絶対数も少ない。転職向きのSNSであるLinkedIn(英語が標準言語)を積極的に利用する日本人は40万人程度(登録者100万人)とされ、グローバルで5億人、アメリカで13千万人の登録者数と比べ極端に少ない。筆者はLinkedInを介したヘッドハンターの誘いで外資系に転職したからその有効性を実感しているが、英語で職務経歴を作って掲載するのは骨が折れる作業である。キャリアを自ら作り上げる意識で日々の仕事をこなしていかないと、企業内での人事異動履歴の他にアピールできる具体的な業績が書けないことにもなる。

大手日本企業の新規一括採用により囲い込みが行われた優秀人材の多くは、多少の不満があってもローテーション等の仕組みの中で日常業務に追われ、職務経歴書も書かずに30代以降を迎えることになる。「メンバーシップ型」の世界にどっぷり浸かると外部労働市場の世界が目に入らず、自分のキャリアや市場価値をつくる視点が欠けるから、会社や仕事に大きな不満が生じたときに行き場がなくなる。閉鎖的な労働市場は、長年にわたる日本的雇用システムが従業員のマインドセットに与えた負の側面の結果とも言える。(イラスト、葉ヶ竹霧)以上