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理想の会社に近づくために、最低限必要なこと

昨年末に上梓した拙著「外資系企業で働くー人事から見た日本企業との違いと生き抜く知恵」の中で、理想の会社について以下のような記述をした。

 

「従業員にとって理想の会社は、この世には存在しない。働く人の希望や要求は変わり続けるからである。理想の会社に近づくための必要条件なら書き出すことができる。それは、「人間尊重の精神を基本とし、会社とともに従業員が成長できる環境を整え続けようとする会社である。

理想の会社に近づくには、最低限、以下の項目を満たす必要があると考える。

 

(1)事業が持続的に成長し、適正利潤が確保できていること

(2)仕事に見合った適正報酬を支払うこと

(3)ワークライフ・バランスがとれること

(4)オープンネス(Openness)があること

(5)多様性(Diversity)が尊重されていること

(6)休職・復職プログラムが機能していること

(7)これらの帰結として、ネットプロモータースコア(Net Promoter Score)が高いこと (以下、省略)」

 

(7)のネットプロモータースコアは、要するに、勤めている会社を知人・友人に喜んで紹介する気になるのか、間違っても入社しないほうがよいと考えるかという評価で上記7項目評価の総括と言えるものだ。

拙著の原稿執筆当時は、残りの(1)から(6)項目につき特に優先順位をつけて考えてはいなかったが、その後の経験を経て、今では、(4)のオープンネスと(5)の多様性がより重要であると思うようになった。

 

会社が成長を続け、給与や福利厚生も良く、ワークライフバランスも取れており、ホワイト企業の認定まで受けた会社があるとしよう。だが、仕事においては、上司や経営の指示・命令は絶対的で、反対意見や提言は一切許されない。周囲に聞こえるように部下を叱責する管理職の声が、四六時中職場に響きわたり、仕事に集中できない。部下に至らぬことがあるとしても、良いところも見つけてコーチングをする文化がない。少しでも雑談をしようものなら、労働効率を下げるという理由で上司のチェックが入る。

 

こんな会社で働きたいだろうか?

 

労働するとは、「使用者の指揮命令下に入る」ことであり、上司の言うことに従うのは当然である・・・そんなことは分かっている、私も一応は、特定社会保険労務士である。

だが、言いたいことも言えず、ただ指示されたことだけを黙々とやる・・・このような職場にいるだけで、酸欠状態になり窒息してしまうのではないだろうか。

 

人はパンだけで生きるのではない。

 

ヒラ社員、管理職、経営者などの階層は、所詮、社内でしか通用しないバーチャルな秩序である。これが強すぎてオープンに意見を出せないような会社は、形の上でどう取り繕うと、多様性(Diversity)に対する理解と包容力も欠けており、間違った上司や経営者の判断がそのまま実行され、やがて衰退の道を辿っていくだろう。会社人間である前に、人を人として扱う「人間尊重の精神」があることが、理想の会社の最低必要条件なのである。

 

この記事を読んだ方々の職場がこのような状態でないことを祈りたいが、残念ながらそうであるならば、一歩ずつでもよいから、職場の雰囲気を改善するための勇気ある発言をしてみてはいかがだろうか。

それでも、会社が変わらなければ、別のオポチュニティを探してみるのも手である。

 

日本には、職業選択の自由があるのだから。

 

以上